脊髄腫瘍(脊髄髄内腫瘍、脊髄髄外腫瘍、馬尾腫瘍)

脊髄腫瘍(脊髄髄内腫瘍)の予後(後遺症)

本稿では術後の成績を可能な限り正確に表記したが、それぞれの腫瘍の生命、機能予後を正確にしるためには、全ての髄内腫瘍を一律に評価するのはあまり意味がないと考えた。

星細胞腫で10年以上経過して連絡が取れたのは2例のみで、予想に反し悪性と病理診断された患者であった。

5年時点での死亡例は11例(45.8%)、生存が確認できた者は9名(37.5%)、機能評価でgrade1または2、すなわち就労可能な人は7例(25.0%)であった。彼らの組織診断は全てastrocytoma(gradeT)かpilocytic astrocytomaであった。

上衣腫は術後3〜6ヶ月で機能の回復はほぼ完了し、その後の改善はあってもわずかで緩徐である。[11]。
術後5年以上経過したものは
25例で5年の時点での20例の機能評価をみると、対麻痺等gradeVは全て腫瘍の主部が胸髄に存在したものであった。

さらに、機能予後は腫瘍の高位により異なることに注目し、主部が『1』延髄〜頚髄、『2』頚髄、『3』頚髄〜胸髄、および『4』胸髄に存在するものに分け、術後の状態が安定する6ヶ月で検討すると、『1』では2例ともgradeUであったが、『2』の20名中18名(90.0%)および『3』の全員がgradeUより良好であった。これに対し、『4』では2名のみ歩行可能で実に75.0%がgradeVであった。

ちなみに2004年3月末の再調査では、頚髄に腫瘍があった症例のみ改善がみられ、当時gradeVであった3例は全てUまで改善していた。したがて主部が頚髄にある上衣腫のみ経時的に改善が期待できるが、胸頚髄部に主部がある場合は6ヶ月の状態が終生持続するものと考えた。この原因として胸髄は解剖学的に頚髄に比べ血流が乏しく、初発症状から腫瘍が発見されるまでの期間が明らかに長く、腫瘍の上下の脊髄の軟化が手術時には著しいことが原因と考えられた。すなわち上衣腫では術前の状態が術後の機能予後に直接関係するというGohら[4]の意見に首肯することが多い。

血管芽腫の症状は腫瘍そのものでなく、併発する脊髄空洞症様変化による脊髄中心症候群[6]と考える。翌年に再手術した2例(症例5と7)をみても多発性あるいは隣接した部位に再発したためと言うより腫瘍を取りきれていないためと思われる。空洞は消失〜縮小せず、症状の改善がないため2回目の手術が行われている。著者の手術した患者は12名に過ぎないが、脊髄に限定すると、術後1年の機能状態をみれば評価な十分と考える。症状の改善がない、あるいは進行した場合にあは全脊髄をMRIで検索し空洞の有無を確かめる必要がある。この際、造影では必須で疑わしい場合には血管造影を追加し確認すべきである。
術後の長期成績は83.3%の患者で明らかにできたが、機能予後を決定する要因は腫瘍の位置[9]と数ばかりでなく、術者の技術に負うところが多い。

髄内出血の原因疾患の半数は海綿状血管腫で、最初の1例を除く全例がMRIで確認された。組織の構造からみても激しい出血とは考えられず、知覚障害と軽度の運動麻痺であることが多い。そのため繰り返す発作の後に発見される症例がほとんどである[1]。硬膜を開けると直ちに血腫による脊髄の変色がみられ位置の確認は困難でない。そこで、後正中溝を分けるか後根進入部を切るかを考える。古い凝血を除去すると、出血源となった異常組織が容易にみつけられる。

一般に術後の成績は良く、そのためか1年を経過したころから患者は来院しなくなり、調査の時点で連絡が取れない症例が他の腫瘍に比較して際立って多かった。

結語

著者自身が手術した主要な髄内腫瘍の長期成績を調査した結果、腫瘍の種類で大きく異なることが明らかにできた。

星細胞腫は生命、機能ともに予後は不良で、組織学的に比較的良性(gradeU)でも5年後には半数以上が死亡していた。毛様体細胞腫は例外のようで、症例数は少ないが良好な経過をたどることが判明した。

上衣腫の生命予後は良好であるが、頚髄に腫瘍の主部がある患者(上部胸髄に下端があるものを含む)では機能予後も良好で23名中21名(91.3%)が1年後には完全社会復帰を果たしその後も良好な経過をたどることが明らかにできた。これに対し、胸髄に主部がある患者での機能予後は絶望的で、75.0%が車椅子の生活になった。

血管芽腫ではvon Hippel-Lindau病を除くと死亡は考えられない。脊髄のみの症例では空洞症による臨床症状と考えられ、手術の手技は最も困難なものであるが、早期に正しく手術した場合、機能予後は良好である。

海綿状血管腫等からの出血の機能予後は1年後をみれば長期の結果も類推可能である。

手術適応

発見時には脊髄直径の大半を占めるまでに成長していることが多い髄内腫瘍は、なるべく症状の少ないうちに手術することで手術による神経機能の悪化を最も最小限にし得る。今までに発表されたいくつかのシリーズでも患者の運動機能が維持されているうちに手術したほうが手術による神経症状の出現は軽度であることが報告されており、筆者の経験もこれに一致する。

全摘出後の脱落症状はもともと機能が低下しているもので強く見られる傾向にあり、Karnofsky Performance Scoreが悪化したものはいずれも術前に機能障害が強かったものであった。今までの経験では、自立歩行可能で入院してきた患者は、術後も歩いて退院するのが原則である。

現在専門家の間ではMRIで発見されたらなるべく早期に手術すべきであるとの考えが一般的である。



脊髄腫瘍(脊髄髄内腫瘍)の患者数と、摘出

腫瘍名 英語名 患者数 死亡数 全摘出 亜全摘出
上衣腫 ependymoma 25例 15例 10例 なし 24例 01例
星細胞腫 astrocytic tumor 09例 10例 11例 12例 不明
血管芽腫 hemangioblastoma 14例 5例 9例 なし 14例 なし
海綿状血管腫 cavernous angioma 07例 5例 2例 なし 07例 なし


脊髄腫瘍(脊髄髄内腫瘍)の、手術後の機能予後(後遺症)の変化

腫瘍名 英語名 改善 不変 悪化
上衣腫 ependymoma 10例(40%) 7例(28%) 8例(32%)
星細胞腫 astrocytic tumor 00例(0%) 2例(10%) 7例(33%)
血管芽腫 hemangioblastoma 8例(57%) 4例(29%) 2例(14%)
海綿状血管腫 cavernous angioma 04例(57%) 2例(29%) 1例(14%)


治療成績は、Neurosurgical Cervical Spine Scale(NCSS)で評価。


星細胞腫の病理学的分類

星細胞腫 GradeT GradeU GradeV GradeW
症例数 5例 7例 9例
死亡数 0例(0%) 3例(43%) 9例(100%)
機能的改善 不変2例(10%)、悪化7例(33%) なし


れらの良性腫瘍では、術直後に多くの例で、一旦神経症状は悪化するが、術後3〜6ヶ月には、
術前の状態あるいは、さらに改善した状態にまで回復する例が多かった。

しかし、なかには、一旦改善した症状が、悪化する例が、ependymoma、hemangioblastoma、
cavernous angiomaのいずれの良性腫瘍にも認められた。

治療結果に影響する因子としては、Cooperらは、腫瘍が頚胸髄にわたる例では、他の部位にあった腫瘍の治療結果よりも悪かったと報告した。