脊髄腫瘍(脊髄髄内腫瘍、脊髄髄外腫瘍、馬尾腫瘍)


脊髄腫瘍 Spinal cord tumor

概念

脊髄の周囲で形成された腫瘍を脊髄腫瘍と総称する。その多くは原発性の神経原性腫瘍であるが、硬膜外腔には転移性腫瘍が多く発生する。

頻度

全腫瘍性疾患のなかにおける頻度は極めて低いが、転移性腫瘍は増加している。発生高位は脊髄の長さに比例して胸椎部に多い。好発年齢は、青壮年期(20〜40歳)で、男女比は、約3:2で男性に多い。

分類

脊髄横断面での腫瘍の発生部位から髄内腫瘍と髄外腫瘍(硬膜内髄外腫瘍、硬膜外腫瘍)に分類され、後者が約80%である。また、これらが連続して発生する腫瘍はその形態から砂時計と呼ばれ、さらにその局在から硬膜内外、椎間孔内外・椎間孔内外腫瘍とも分類される。ほとんどが単発性であるが、時に多発例もある。脊椎の横断面上では、脊髄の後側方部にほとんどが発生する。

病理学的には、わが国では神経鞘腫が約50%、髄膜腫が約15%と多く、髄内腫瘍としての上衣腫と星状細胞腫が約15%である。硬膜外腫瘍としては悪性リンパ腫と転移性脊椎腫瘍が多い。なお、上位頸椎部には神経鞘腫が多く、しばしば砂時計腫の形態をとる。

a、髄内腫瘍
b、硬膜内髄外腫瘍
c、硬膜外腫瘍
砂時計腫 d、硬膜内外
e、椎間孔内外
f、硬膜内外・椎間孔内外

臨床症状

臨床症状は、腫瘍の発生部位、高位、大きさ、神経組織の圧迫程度により異なる。最もよくみられる症状は疼痛であり、約7割の症例の初発症状となる。他は神経麻痺症状で、種々の程度の運動・知覚障害さらに膀胱直腸障害を呈する。最近は、MRIの発達により、麻痺症状が出現する前に診断される例が増えている。

神経症状は、腫瘍の発生高位すなわち大孔〜上位頸椎部腫瘍、頸髄腫瘍、胸髄腫瘍、円錐部腫瘍、馬尾腫瘍などにより異なる。頭頸移行部腫瘍では、下位脳神経の麻痺症状、交叉性や(反)時計回り型の運動麻痺を呈することがあり、円錐部腫瘍では排尿障害を初発症状とする例がある。また髄外腫瘍ではBrown-Sequard型麻痺を、髄内腫瘍では釣鐘型の知覚解離をみることがある。

問診で聞くべきこと

@疼痛については、安静時でもあるのか聞く。
A疼痛が軽減する体位について聞く。
B麻痺例では、外傷の有無、既往歴(頸椎症、腰部脊柱管狭窄症、悪性腫瘍の治療歴など)を聴取する。
C入浴時に温感のない部位があるか聞く(髄内腫瘍でよくみられる知覚解離の診断に役立つ)

必要な検査とその所見

@麻痺例では、神経学的診察で障害神経、高位、範囲を診断し、脳の障害でないことを確認する。
A障害部位の単純X線撮影を行う。椎体、椎弓根の圧潰像(scalloping)、破壊像、椎間孔の拡大の有無を診断する。椎弓根間距離(Elsberg-Dyke曲線)の拡大の有無をみる。
BMRI撮像によりほとんどの腫瘍は診断できる。ガドリニウム造影効果から質的診断も可能なことがある。
Cシンチグラム(骨ならびにガリウム)は転移性腫瘍の診断と治療法の選択に必要である。
D髄内腫瘍では血管造影を行う。
E術前検査としてミエログラフィ、CTMが必要である。

診断のポイント

@神経学的診察で、障害神経の高位、範囲、程度を診断することが基本である。
A単純X線像では、注意深い観察で小さな異常を見逃さない。
B初回MRIで腫瘍が疑われたら、必ずガドリニウム造影MRIを再検する。
C疼痛のみで単純X線像に異常のない例でも、安静時でも疼痛があり、経過の長い例ではMRIを撮像してみる。

治療方針

@保存的治療は無効であるので、摘出術が治療の原則である。
A髄外腫瘍は予後が良いので、取り残さないような手術計画を立てる。
B髄内腫瘍も星状細胞腫を除けばマイクロサージャリーにより全摘出が可能である。
C腫瘍摘出後は、ほとんどが後方侵襲で行うので、術後の脊椎の変形を予防できるよう、片側椎弓切除術や椎弓再建術を併用する。
D髄内腫瘍の摘出術では、脊髄モニタリングを行う。

手術療法

T、髄内腫瘍

@腫瘍の存在範囲より上下1椎弓は広く展開し、棘突起縦割式の椎弓形成術で行う。硬膜が展開されたら、超音波検査で腫瘍と空洞の位置を確認する。
A以下、顕微鏡下手術とし、硬膜とくも膜を別々に縦切し、左右に糸をつけて翻転する。腫瘍による膨隆部より頭側あるいは尾側で脊髄の後正中溝を確認し、そこから軟膜を切離し、さらに脊髄を左右に鈍的に開く。後正中溝の位置は、髄内からの静脈が左右に分かれて走行していることから確認できう。脊髄背面の脈管は、なるべく温存するように正中のみバイポーラで凝固し、切離する。
B腫瘍が出たら周囲を愛護的に剥離し、一部を迅速病理検査に提出する。
C上衣腫の診断であれば、周囲を剥離し一塊としての摘出を試みる。無理なときはCUSAで中心から分離・吸引し、可及的に切除する。
D星状細胞腫であれば、正常組織との境界が明瞭なごくまれな例を除きCUSAを用いての可及的切除にとどめる。
Eなお、腫瘍の周囲にはしばしば空洞が存在するので、術前のMRI所見からどこまで摘出するかの計画を立てておく必要がある。

U、硬膜内髄外腫瘍

@腫瘍は脊髄の後方から後側方に存在する例がほとんどであるので、頸・胸椎部では棘突起を含めた片側椎弓切除術で展開する。なお、対側の椎弓を片開き式に拡大すると広い視野が得られる。腰椎部では、両側椎弓の基部を線据で切離し、一時術野から摘出し、後に還納、固定する。その際、椎弓の頭・尾側どちらかの棘上靱帯を温存しておくと、後の骨癒合がよくなる。
A硬膜、くも膜を縦切し、腫瘍を観察する。根由来の腫瘍であれば、根を含めて一塊として切除する。脊髄から剥離できないときは、無理をせず被膜を切離し、内容組織をまず切除し、後に被膜を切除する。
B髄膜腫が考えられるときは、腫瘍発生部の髄膜もともに切除する。硬膜欠損部は筋膜か人工硬膜で修復する。

V、硬膜外腫瘍

@硬膜内髄外腫瘍と同様な脊柱再建を考えた展開を行う。腫瘍が頭尾側に長く存在することが多いので、できたら片側椎弓切除術と片開き式の展開がよい。
A腫瘍が展開されたら一部を迅速病理検査に提出する。転移性腫瘍であったら、椎弓切除を含めた除圧が目的なのか、完全摘出を行うのかを判断する。転移性腫瘍は硬膜の前方まで存在することが多いので、全摘出は困難なことが多い。

W、砂時計腫

@上位頸椎部では片側椎弓切除と一側の椎間関節を切除し、腫瘍を一塊として摘出する。術前に血管造影を行い、椎骨動脈と腫瘍とうの位置関係を確認しておく。腫瘍切除後は脊椎後方固定術を行う。
A中・下位頸椎部の大きな腫瘍では、後方侵襲と前方侵襲で腫瘍を分けて、しかし一期的に摘出する。
B胸椎部では、後方から片側椎弓切除と肋骨横突起切除術costotransversectomyの手技で腫瘍を摘出する。
a、髄内腫瘍に対する両開き式脊柱管拡大術(頸椎)
b、片側椎弓切除術に片開き式脊柱管拡大術を加える方法(頸椎)
c、片側椎弓切除術(胸椎)
d、両側椎弓を一塊として摘出後、還納する方法(腰椎)
e、砂時計腫に対する片側椎弓切除術とcostotransversectomy(胸椎)

後療法のポイント

@ドレーンからの髄液の排出が止まらないときは、ドレーンを無圧で留置したままとし、必要に応じて腰部髄液ドレナージを行う。
A@以外は脊髄瘻を作らないようにできるだけ速やかに硬膜外のドレーンを抜去する。
B理学療法は、ドレーン抜去後できるだけ速やかに行う。
C髄内腫瘍では、しばしば術後の放射線療法を行う。

ナース・PT・OTへの指示

@ドレーンのある創の清潔に留意する。
A上位頸椎部腫瘍では、術前からの呼吸訓練が必要である。
B髄内腫瘍摘出後には、後索障害による位置覚障害に留意してリハビリを行う。