脊髄腫瘍(脊髄髄内腫瘍、脊髄髄外腫瘍、馬尾腫瘍)

脊髄腫瘍の看護の展開

アセスメント

1、患者の心理状態、背景など

脊髄腫瘍の患者が抱えている問題点は、神経症状に伴う身体的苦痛、日常生活、社会生活への不安、予後への不安などである。

患者の置かれている社会的、家族的立場、家族関係や家族の協力度、患者の心理状態、患者が我々医療チームに求めているものをも汲み取ることが重要である。

2、神経症状

脊髄腫瘍の患者は疼痛を訴えることが多く、運動、知覚障害、膀胱、直腸障害を主症状とする。したがって、看護にあたっては、歩行状態、筋力低下の有無、手指の巧緻性、筋萎縮、しびれ感や疼痛の部位と程度、尿失禁の有無、排便状態などの観察が重要である。

3、褥瘡、拘縮、その他合併症

脊髄障害のある患者では、褥瘡が生じやすい。運動麻痺、知覚麻痺、自律神経症状、栄養状態などが褥瘡の発生を助長し、増悪させる要因となる。特に褥瘡の発生しやすい腰仙部、背部、踵部などは頻繁に観察することが重要である。

その他の合併症としては、関節の拘縮、呼吸麻痺、呼吸器感染症、尿路感染症、便秘、精神的抑うつなどが上げられる。これらの発生の可能性を念頭におき観察することが重要である。

看護の実際

1、検査時

脊髄腫瘍患者の検査としては、血液、尿、心電図などの一般検査、X線撮影、CT、MRI、脊髄造影、筋電図検査などが行われる。これらの検査の目的、方法、合併症について理解しておくことが大切である。

患者は、検査に対して不安や恐怖を持っているもともある。例えば、MRI検査では、非常に狭い検査台の上で比較的長時間同一の体位を保持する必要があり、閉所恐怖を抱く患者もいる。

患者は、検査の必要性、検査方法、合併症などについて、医師から説明を受け理解をしているはずであるが、さらに看護者が分かりやすく説明し、不安や恐怖を緩和することが大切である。

2、術前

脊髄腫瘍の診断がなされると、多くの場合、できるだけ早期に手術を施行し、脊髄や脊髄神経に対する減圧術が行われる。

しかし悪性腫瘍の場合には、手術と併用して、あるいは単独で、放射線治療や化学療法が選択される。

医師は、患者および家族に対して、検査結果、治療の選択、治療の具体的方法、治療に伴う合併症などにつきインフォームドコンセントを得る。看護者は、この説明に医療チームの一員として立会い、患者の病状、治療法を十分に理解し、患者の援助を行うことが大切である。

手術治療が選択された場合、術後一定期間はベッド上での安静を必要とする。術前より深呼吸、痰の喀出、仰臥位での食事、口腔ケア、排泄、体位変換、ベッド上での運動などの指導、練習を行う。

術後、装具を使用する場合には、装具使用の目的、装具の構造や装具法を理解し、患者に装着の方法、圧迫による皮膚障害の予防、装具の手入れ法などを指導する。術前の剃毛は医師の指導により行う。

脊髄腫瘍の患者は、術前より運動麻痺、知覚障害、膀胱、直腸障害などの神経症状を呈していることが多い。このような場合、外傷の予防、褥瘡の予防、尿路感染症の予防に努めることが大切である。

3、術後

1、手術直後の一般的看護

手術直後の看護は、一般的外科手術の全身麻酔時の看護に準ずる。麻酔覚醒状態、呼吸状態、血圧、脈拍、体温、腸蠕動などを観察する。

ベッドは軽度アップし呼吸を容易にする。深呼吸、痰の喀出を促す。患者が自力で喀出できない場合には、吸引除去し呼吸器合併症を予防する。

四肢の動き、痛みの部位、性状、知覚障害の範囲など神経学的所見の観察も行う。神経症状が悪化する場合には、術後出血が疑われるので、ただちに医師に報告する。術後は、創ドレナージが設置されているが、排液の量、性状のチェックも行う。

術後の安静度は、手術術式、手術の部位、範囲などにより異なる。従って、術後の看護も患者個々により異なる。頸椎の手術では、頸部を砂嚢で固定し安静を図る。

2、体位変換、清拭

体位変換では、沈下性肺炎の予防、褥瘡の予防、静脈血栓の予防、四肢拘縮の予防などを目的として行う。術後は、原則として2時間ごとに体位変換を行い、同時にマッサージ・タッピングなども行う。体位変換は、体位を変える側に介助者が立ち、頸部や腰部がねじりないように注意して手際よく行う。

清拭は手術翌日より行い、身体の清潔に努めるとともに皮膚の観察を行う。

3、排尿、排便

手術翌日より膀胱訓練を行い、尿意確認の後、バルーンカテーテルを抜去する。バルーンカテーテルを留置している時は、無菌的に管理する。バルーンカテーテルはなるべき早期に抜く去する。排尿障害が続く場合には、トリガーポイントを刺激しながら手圧排尿を試みる。

仙髄の排尿中枢が健全であれば、排尿反射が存在し、膀胱が充満したり膀胱部を軽く刺激することで排尿がみられる。手圧が強すぎると、膀胱破裂や膀胱尿管逆流現象を引き起こすこともあいr注意が必要である。下位脊髄障害の患者では、脊髄反射が消失しえおり、膀胱が充満しても排尿がみられない。このような場合には、手圧排尿や間欠的自己導尿により排尿させる。尿漏れが多いと、陰部や臀部が湿潤し、褥瘡や感染の原因となるので、導尿の回数を多くする。

脊髄障害患者では、腸管運動の低下により、宿便を生じやすい。このような場合、繊維質の多い食事や水分補給などで便通を促す。自然排便のない時には、下剤を投与したり摘便や浣腸などをする。

4、食事

食事は、術翌日、腸蠕動を確認してから開始する。ベッド上で自力で食事が可能となるまでは、食事の介助を必要とする。介助時は誤嚥することのないよう注意する。

また、栄養状態が悪いと褥瘡の原因ともなるので、栄養状態に注意をはらう。

5、褥瘡の予防と管理

脊髄腫瘍の患者は、運動麻痺があるため同一の部位が長時間圧迫されやすい。皮膚に圧迫が加わっても痛みが知覚されない、循環障害のため、皮膚の栄養状態が悪い、膀胱直腸障害のため失禁があり、皮膚が不潔になりやすいことなどにより褥瘡が発生しやすい。

褥瘡は一度発生すると治癒させることが困難である。従って、予防こそが褥瘡に対する最善の治療法となる。褥瘡は患者側の要因により、その発生を避けられないこともあるが、古くから『褥瘡をつくるのは看護婦の恥である』と言われているように、看護の責任も大きい。予防策としては、長時間同一部位を圧迫することを避け、皮膚の乾燥と清潔を心がける。圧迫に対しては体位変換と円座、スポンジマット、エアマットなどの予防用具で対応する。発赤がみられた場合には、50%アルコールなどで皮膚マッサージを行う。リネンのしわ、縫い目などによる圧迫や、患者を動かす時の摩擦やズレにも注意が必要である。

また、高カロリー、高タンパク、高ビタミンのバランスのとれた食事を採らせ栄養状態を改善させることも重要である。

種々の予防策を講じても、なお褥瘡が発生した場合には、その病期により、圧迫の除去、マッサージ、創面の保護、感染予防、肉芽形成の促進薬の使用、創傷被覆剤の使用など適切な処置を行う。壊死組織がみられる場合には、創面を清浄化することが必要で、デブリードマンや抗菌剤の投与を行う。肉芽形成促進剤や創傷被覆材を使用する。外固定装具を使用している場合にも、圧迫部に褥瘡ができやすいので注意すべきである。

6、拘縮の予防、機能訓練

麻痺のある時には、麻痺肢の拘縮、変形予防のみならず健肢の筋力低下の予防も重要となる。

拘縮、変形、疼痛の予防と関節可動域の維持のために、良肢位を保持する。良肢位を保持するためには次のようにする。大きな安楽枕を大転子の下に当て、下肢の外旋を予防する。安楽枕や足底板を用いて、足関節を90度に保ち、尖足を予防する。

膝関節、股関節の屈曲拘縮あるいは伸展拘縮を予防するため、下肢の長時間過度の屈曲位あるいは伸展位は避ける。手関節の屈曲変形を予防するため、手関節は軽く背屈位とする。手指の屈曲、伸展拘縮を予防するため、ハンドロールを握らせ、母指は対立位とし、四指は軽く屈曲位とする。

関節の可動性を保持しないと関節が拘縮する。筋を伸展、収縮させないと、筋は線維化し、筋拘縮を起こす。麻痺肢は血液循環が悪く、うっ血や浮腫をきたす。このようなことを防止するために、早期から、ベッドサイドで各関節の他動運動を開始する。

術後の安静がとれたら、さらに抵抗運動、起座位、歩行および日常生活動作訓練へと理学療法士や作業療法士と共同して進めていく。

7、精神面への援助

脊髄腫瘍の患者に限らないことであるが、もう一つ大切なことは、患者、家族の精神面への看護である。脊髄腫瘍により障害を遺す患者もいれば、その治療が困難で症状の進行を止められない患者もいる。

このような場合、患者の不安や葛藤は大きい。患者やその家族が病気を受け入れて、自立できるように援助していくことが大切である。




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