脊髄腫瘍(脊髄髄内腫瘍、脊髄髄外腫瘍、馬尾腫瘍)


馬尾腫瘍(Tumor of Cauda Equina)

病態と診断

馬尾腫瘍の多くは、腰痛、神経根痛で発症し、しびれ、弛緩性麻痺などが生じる。
腰仙部は脊柱管が広いため、腰痛発見から神経症状出現までに、数年を要することがある。したがって、保存療法に奏効しない腰痛があるときには、早期にMRI撮影を行うことがすすめられる。
腫瘍には、神経鞘腫、髄膜腫、まれに粘液乳頭状上衣腫、類上皮腫、血管芽腫などがある。

@神経鞘腫

最も多い。神経根から発生、発育する。硬膜内外に広がったものを砂時計型dumbbell typeと呼び、椎間孔から脊柱外に進展することも多い。
多発するものは、von Recklinghausen病と関連する。

A髄膜腫

硬膜から発生する腫瘍で、中年女性に多い。

B粘液乳頭状上衣腫

髄内腫瘍である上衣腫の亜型。脊髄終糸から腰髄円錐部に発生する。

C類上皮腫

多くは先天性であるが、腰椎穿刺によって入り込んだ、皮膚組織から発生するとも言われている。

単純X線撮影では、脊椎への慢性圧迫所見がみられる。側面像で貝柱状変形、前後像で椎弓根間距離の拡大などがこれにあたる。砂時計型では片側椎間孔の拡大がみられる。
最近は、脊髄造影はほぼ不要となり、MRIのみで手術が行われることが多い。

神経鞘腫は良好な造影効果があり、腫瘍内嚢胞を伴うことが多い。砂時計型の鑑別が術前診断の大切なポイントである。造影CTを行い、椎間孔の変形の有無を参考にする。

髄膜腫は均一に造影され、肥厚した硬膜の付着部も造影される。腰髄円錐部に接する腫瘍は上衣腫を考える。嚢胞状腫瘍は類上皮腫を考える。



馬尾腫瘍(Cauda equina tumor)

概念

脊髄腫瘍の発生頻度は人口10万人のうち2.5人とされているが、馬尾腫瘍はそのうちの15〜25%を占めるとされている。組織学的には神経鞘腫が最も多く、髄膜腫がこれに次いでおり、この2つが大半を占める。その他神経線維腫、類表皮腫、類皮腫、脂肪腫、上衣細胞腫などがある。まれに悪性腫瘍の硬膜内転移、播腫もありえる。馬尾の解剖学的な特殊性のため、腫瘍が相当大きくなるまで症状を示さないことが多く、また症状の多様性からほかの腰椎疾患、特に椎間板ヘルニアや腰椎分離・すべり症と誤診されることも多い。

臨床症状

馬尾腫瘍は腰痛で発症することが最も多い。ついで根性疼痛が出現し、さらには下肢筋力低下や下肢、会陰部の知覚障害、膀胱・直腸障害を生じる。症状が体位により、変動することがあり、その多くは脊髄造影でその移動を確認できる。特に臥位で激烈な腰痛、下肢痛を来し、起立、歩行により症状の緩解をみることがあるが、これは臥位のときに腫瘍が上方に移動し椎弓根間に陥屯するためと考えられる。また傍脊柱筋やハムストリングスの強い緊張が本症の初発症状であることもある。

診断のポイント

@単純X線写真では椎弓根間距離の拡大、脊柱管前後径の拡大、椎体の限局性の圧痕(椎体後縁のscalopping)、脊柱弯曲異常などがみられることがある。また腫瘍の石灰化像は髄膜腫に高頻度にみられ、単純X線写真で確認されることもある。CT、断層写真で明瞭になる。

AMRIは馬尾腫瘍の存在と部位診断には非常に有用であり、馬尾腫瘍を疑ったときの第1選択の検査となった。またある程度その質的診断も可能となった。髄膜腫はMRIでは脊髄実質とほぼ同様の信号強度を示し、硬膜に密着した半円−類円形の境界明瞭な腫瘍で均一に造影される。神経鞘腫は脊髄実質と比べ、T1強調像では低−等信号、T2強調像では等−高信号に描出される。髄膜腫に比べT2強調像で高信号を示し、内部が嚢胞形成のため、不均一に造影される傾向がある。脂肪腫はしばしば
spinal dysraphismに合併し、硬膜内外に存在し皮下の脂肪腫と連続していることが多い。T1で高信号を呈し、ほぼMRIで確診される。

手術療法

馬尾腫瘍摘出のためには一般に椎弓切除術を必要とする。筆者らは、椎弓をいったん切離し、蓋を開けるように椎弓を翻転または外し、脊柱管内の腫瘍摘出操作が終了した時点で再びもとの位置に解剖学的に正確に還納する、完全還納式椎弓切除術(金大式)を開発して行っている。この方法では椎間孔を含めて脊柱管の後方要素をすべて開放することが可能であり、十分な術野が得られる。またT-sawを用いて椎弓切除を行うので切除に伴う切り幅のロスがなく、椎弓を完全に解剖学的なもとの位置に還納できるので、従来のように椎弓切除に伴う外傷を危惧する必要もない。

T、椎間関節内側縁切離による方法

まず切除予定椎弓の上下の椎弓間の黄色靱帯を切除する。その椎弓間からT-sawカテーテルを用いて切除予定椎弓下の硬膜外腔にT-sawを通す。T-sawの両端を外側に引き、椎間関節内側縁に当てがい、斜め後側方に引きながらsaw motion操作を行うと椎弓の椎間関節内側縁が切離される。もしも後弯している場合は、まとめて複数椎弓を切離するのは硬膜に対して危険であるため、椎弓を1つもしくは2つずつ切離する必要がある。脊柱管内操作のたとに椎弓を還納し、糸で締結する。

U、関節突起間部切離による方法

T-sawガイドを用いてT-sawを椎弓下に切離椎弓の上関節突起内側から椎間孔へ通す。ついでT-sawの両端を斜め後側方に引きsaw motion操作を行うと椎弓の上下関節突起間が切離さっる。下位椎弓との間の黄色靱帯を切離すると下関節突起、棘突起を含んだ椎弓がen blocに摘出される。脊柱管内の手術操作のあとに椎弓を還納する。砂時計腫で椎間孔へのアプローチが必要なときに有用である。

注意点

脊柱管内での腫瘍切除操作は手術用顕微鏡を用いて神経に愛護的に行えば、神経の損傷はないか、もしくは最小限にできる。また硬膜の縫合はwater tightに行う必要がある。
神経鞘腫の場合は多発している場合もあり、1つだけ切除して安心するのではなく十分にほかの病巣がないか観察する必要がある。髄膜腫であれば発生部位の硬膜を一緒に切除しないと再発する。この場合は硬膜形成が必要になる。また上衣腫は完全に切除しきれないことも多く、このことは術前に十分患者に説明しておくべきである。

後療法のポイント

創の状態が落ちつけば体幹コルセットを装用し起立、歩行を許可する。

患者説明のポイント

腫瘍の種類に関しては臨床所見、各種検査から考えられる可能性の高いものから順に説明するが、実際の確定診断には悪性の可能性を含めて病理組織で判断することを説明する。また発生神経を犠牲にすることによる術後神経症状について説明する。また手術したあとの再発の可能性についても言及する。




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