脊髄腫瘍(脊髄髄内腫瘍、脊髄髄外腫瘍、馬尾腫瘍)


脊髄空洞症 Syringomyelia

疾患概念

脊髄実質内に髄液の貯留が起こり、拡大伸展すると種々の脊髄症状を生じる。なぜ脊髄内に髄液の侵入が起こり、拡大していくかについては未だ明らかでない。脊髄内中心管の関与、髄液灌流障害の関与が古くからいわれているが、発生機序については明確ではない。

ただし脊髄空洞症が単独に特発的に発生することは稀であり、いくつかの基礎疾患に合併して生じることが明白で、異論はない。その基礎疾患に合併してはChiari奇形、癒着性くも膜炎、脊髄損傷、脊髄髄内腫瘍が重要であるが、脊髄損傷後の脊髄空洞症については次項で述べるので、ここではそれ以外の空洞症について述べる。

病型・分類

最も頻度が高く重要な基礎疾患として、Chiari奇形がある。Chiariはプラハの病理学者であり、1888年に脊髄空洞症は脊髄中心管を中心に発生すると述べ、1891年に小脳扁桃が頚椎管へ下降する奇形の合併が多いことを報告し、3型に分類した。現在ではChiari奇形を2型に分類するのが一般的である。

すなわち開放性二分脊椎に伴った小脳扁桃の下垂がT型である。
ChiariU型においては病理学的にも中心管が拡大したもの(dysraphism、癒合不全)と認識されているが、T型においては中心管の拡大や中心管との交通が現在では否定的である。大孔部での髄液灌流障害が大きな役割を果たしているのは間違いないが、空洞形成については、まず微小空洞が後角部に多発的に発生し、それらが癒合拡大し生じているものと考えられている。

脊髄癒着性くも膜炎は、結核性や細菌性髄膜炎後の癒着が多くを占めるが、脊髄手術や脊椎麻酔によるものや、原因不明の場合もある。癒着部での髄液灌流障害が空洞発生の原因と推察されるが、実際の空洞発生機序については未だ明確ではない。咳や腹圧等により髄液圧は上昇するが、癒着部での著明な髄液灌流障害により局在的に圧較差が生じ、脆弱部に髄液が進入し発生するものと推測している。なかにはくも膜嚢腫を合併する例もみられる。

脊髄髄内腫瘍に伴う空洞は腫瘍に隣接し発生するが、他の空洞と趣きを異にしており、それ自体が脊髄症状を起こすことはきわめて稀であり、あくまでも脊髄腫瘍に随伴するものである。中心管やくも膜下腔との交通もみられず、あたかも腫瘍が分泌する液体の貯留のようでもある。
空洞を随伴しやすい腫瘍としては、血管芽腫hemangioblastoma、上衣腫ependymomaが有名で、約80%の症例に空洞が合併するといわれ、次いで星状細胞腫astrocytomaに多く、約40%にみられる。



治療方針

@Chiari T型で空洞があっても、症状が軽微あるいは空洞が緊満していなければ、数ヶ月ごとの経過観察とする。咳やくしゃみ、力み、腹圧をかけるなどの髄液圧を上昇させる行為を避けるように指導する。

A空洞が緊満して状態であれば手術をすすめている。手術方法は大孔減圧術が第一選択であり、それでも空洞が縮小しない例には空洞くも膜下腔シャント術(S-Sシャント)を施行する。S-Sシャントの施行部は空洞が最大で脊髄が最も菲薄な所を選ぶ必要がある。くも膜下腔側のチューブ設置部は癒着などない所を選択せねばならない。

BChiari U型に伴う空洞は脊髄の癒合不全dysraphismによる中心管の拡大が主体であり、脊髄が腫大、緊満するほど大きくならずに手術対象となる例はきわめて稀である。

C癒着性くも膜炎に伴った脊髄空洞症に対する手術としてはS-Sシャントがあるが、くも膜下腔が癒着のため十分開存していない例が多く、空洞と腹腔をシャントする方法も選択される。最近では癒着しているくも膜下腔を再形成し、癒着部の髄液灌流を改善させる手段が試みられている。

D脊髄腫瘍に伴う空洞については腫瘍摘出だけでよく、空洞を扱う必要はない。

側弯を合併した空洞では、側弯矯正手術の前に、まず空洞手術を行うのが原則である。空洞存在下に変形矯正のための牽引等を加えると脊髄障害を発生する可能性があるからである。



発生頻度

他の脊髄疾患と比べて稀とされているが、MRI導入以降診断される機会が増えている。発症年齢は20〜30歳代が多く、わが国ではChiari 奇形(51.2%)が最も多く、脊髄外傷後(11.0%)、脊髄腫瘍(10.5%)、脊髄くも膜炎(6.0%)の順である。

病理生理

脊髄空洞症の発生機序に関しては古くから様々な説が提唱されてきている。しかしすべての脊髄空洞症を単独の機序によって説明することは不可能であり、個々の症例により複数の機序が関与していると考えられている。

Gardner説(1965年)

胎生期の異常により第4脳室からくも膜下腔への髄液流出口が開放しないため、第4脳室から中心管への交通が持続し、髄液拍動により髄液が中心管へ流入し空洞が形成され伸展していく
(hydrodynamic theory)

Williams説(1969年)

咳やくしゃみなどにより急激に胸腔内圧が上昇すると脊椎管内の髄液は頭蓋内に流入し、胸腔内圧の正常化により髄液は頭蓋内から脊椎管内へ速やかに戻る。頭蓋頸椎移行部病変が存在すると頭蓋内から脊椎管内への髄液の戻りが遅れ、頭蓋内の圧が相対的に高くなり、髄液は中心管に流入する。(sucking theory)。拡大した中心管内の髄液は、硬膜外静脈圧の変化にともない上下運動を繰り返し、空洞が伸展していく(slosh mechanism)。

Ball and Dyan説(1972年)

脊椎管内圧の変化により、脊髄表面から血管周囲腔(Virchow-Robin space)を介し髄液が脊髄内に侵入し空洞を形成する(transmedullary theory)。中心管との交通を認めない空洞形成の発生機序として支持されている。



脊髄空洞症の分類

年齢 小児、成人
空洞が存在している
脊髄の高さ
頭蓋頸椎移行部、脊髄
病因論 先天性、後天性
病理学的 非腫瘍性、腫瘍性、外傷性、炎症性
中心管との関係 水髄症、脊髄空洞症
第四脳室との関係 交通性、非交通性
空洞内液の性質 髄液様、高蛋白
空洞形状 多房性、単房性

脊髄空洞症の分類

交通性脊髄空洞症 @大後頭孔および後頭蓋窩に先天性の奇形を伴うもの
(キアリ奇形など)
A大後頭孔および後頭蓋窩に後天性の奇形を伴うもの
(脳底部クモ膜炎など)
非交通性脊髄空洞症 @外傷後の脊髄空洞症
A脊髄に限局するクモ膜炎に続発する脊髄空洞症
B脊髄腫瘍に伴う脊髄空洞症
特発性脊髄空洞症

Chiari(キアリ)奇形の分類と特徴

T型 @小脳扁桃だけが脊髄腔内に陥入している
A第2頸椎を越えて陥入することはまれである
B髄膜瘤を合併することはない
C水頭症を合併する率は10%以下である
U型 @小脳扁桃だけでなく、脳幹も脊髄腔内に陥入している
A第2頸椎を越えて陥入することが多い
B中脳被蓋部の鳥のくちばし様変形、視床間橋の肥厚
C延髄の屈曲像、小脳テントの低形成をみる
D大部分は水頭症と髄膜瘤を合併する
V型 @頭蓋頸椎移行部に髄膜瘤を認め、この中に小脳・脳幹が陥入している
A大部分は水頭症を伴う
W型 @著明な小脳の低形成と後頭蓋窩容積の縮小を認める






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