脊髄腫瘍(脊髄髄内腫瘍、脊髄髄外腫瘍、馬尾腫瘍)


脊髄血管障害

脊髄血管障害は脳に比べると、はるかに頻度が少ないものの、診断が難しく、いったん発症すれば重篤な機能障害を残すことが多い疾患群といえる。しかしながら現在ではMRIの発達により診断が容易になってきている。

脊髄動静脈奇形

疫学的事項

原発性の脊柱管内の腫瘍の4%を占めるといわれている。1888年にGauppが“軟膜上のhemorroid”と報告したのが最初である。以来、1900年にBrashが、1910年にKrausが脊髄動静脈奇形の症例を報告している。形態的な記録の詳細については1925年にSargentが、1943年にWyburn-Masongaが報告しているが、1960〜70年代に選択的脊髄血管撮影が発達してから、Di-Chiro、Aminoff、Djindjiamらが次々と脊髄動静脈奇形の分類につして報告をしている。中でもDi-Chiroはsingle coiled、juvenile、glomusと3つのタイプに分けたが、Kendall、Symonらがdural AVMの概念を提唱し、実際はこのタイプの患者が多いことを明らかにした。脊髄血管解剖への理解が深まり、治療を考える上で、動静脈短絡の局在部位により次のように分類するのが、現在では一般的である。

分類および症候

1、intramedullary AVM(髄内動静脈奇形)

動静脈短絡、nidusが髄内に存在するタイプの脊髄動静脈奇形、流入動脈は通常複数であり、主に前脊髄動脈を介して中心動脈から栄養される。若年者に多くみられ、くも膜下出血あるいは髄内出血にて発症する。

2、perimedullary AVF(脊髄辺縁部動静脈瘻)

流入動脈は後脊髄動脈あるいは前脊髄動脈からの脊髄辺縁(軟膜)への小動脈であり、動静脈短絡は脊髄表面に存在する。しばしば静脈瘤を合併する。3つに細分類されている。

TypeT:流入動脈が単一で、動静脈短絡も一箇所であり、小さな脊髄動静脈瘻。
TypeU:流入動脈は複数で、動静脈短絡は一箇所あるいは複数であり中程度の脊髄動静脈瘻
TypeV:流入動脈は複数、動静脈短絡は複数、血流も早く、大きな静脈瘤を伴う。

頸髄レベルでは、くも膜下出血あるいは髄内出血を起こすことが多いが、胸髄あるいは腰髄レベルでは静脈瘤による脊髄への圧迫、静脈圧の亢進による還流障害を呈することが多い。

3、dural AVF(脊髄硬膜動静脈瘻)
動静脈短絡が椎間孔近傍の硬膜表面にあり、流出静脈が硬膜を貫通し、脊髄表面を走行する脊髄動静脈奇形、中高年の男性に多く発症し、静脈圧の上昇により脊髄症状をていする。胸髄、腰髄レベルに多くみられ、進行性の弛緩性対麻痺を呈することが多いが、近年頭蓋頸移行部で出血発症にて発症する症例も報告されている。

Foix−Alajouanine syndrome:慢性進行性に脊髄の萎縮をきたし、脊髄の表面に拡張蛇行した静脈を認める。現在ではdural AVFのterminal stageあるいは血栓化した脊髄動静脈奇形と考えられている。

検査

MRI(magnetic resonance imaing)

脊髄動静脈奇形が疑われた場合に、まず行うべき検査がMRIである。脊髄動静脈奇形でのMRI上最も特徴的所見としてflow voidがあげられる。これは拡張した流入動脈および流出静脈、nidusさらに静脈瘤などの血管構造物が無信号領域としてみられる所見である。

また脊髄情報として脊髄の腫大、偏位、あるいは脊髄静脈の灌流障害によるT2強調画像における高信号領域などがあげられる。さらに陳旧性の出血ではヘモシデリンが低信号領域として認められる。

DSA(digital subtraction angiography)

脊髄動静脈奇形の確定診断として不可欠のものである。脊髄表面の拡張蛇行する静脈がみえたならば、連続撮影を行うが脊髄動静脈奇形のタイプにより撮影法を変更する必要がある。すなわち硬膜動静脈瘻では血流が遅く、秒間2フレームで開始し、後半は秒間1フレームで撮影することが重要であり、動脈相の早期にはときに秒間6フレームで撮影することが重要であり、intramedullary AVMあるいはperimedullary AVFでは早期動脈相が特に重要であり、動脈相の早期にはときに秒間6フレームで撮像しないと関与する流入血管あるいは動静脈短絡の局在がわからないことがある。

CT anagiography

とくにintramedullary AVMかperimedullary AVFか識別が難しい場合、あるいは静脈瘤および流入動脈、流出静脈と脊髄の関係を知りたい場合に行われる。DSA撮影後にカテーテルをwedgeさせたままCT室に移動し、造影剤を注入しながら連続撮影を行う。

治療

治療の目的は、くも膜下出血、髄内出血の予防、そして静脈灌流障害あるいは静脈瘤の圧迫による脊髄症状の改善である。

治療手段として代表的なものは人工塞栓術あるいは観血的手術がある。intramedullary AVM、dural AVFはともに人工塞栓術の適応であるが、前者がPVA(polyvinyl alcohol)顆粒によるpaliativeな治療が主なのに対し、後者ではNBCA(nonbutyl cyanoacrylate)などの液体塞栓子が完全治癒を期待して使用される。

ただし、dural AVFで、塞栓術が不完全に終了した場合あるいは前脊髄動脈が同じレベルから抽出され、塞栓術gが危険と判断された場合には、観血的手術により硬膜内に流入する静脈を遮断する。

これに対し、perimedullary AVFでは動静脈短絡の部位が脊髄表面に存在し、軟膜上の細動脈の側副路があるので観血的治療により動静脈短絡の遮断を行う。ただしhight flowの動静脈瘻に対しては、術前にflow conrolの目的でPVAを主とした塞栓術を施行する。

頸髄レベルで前脊髄動脈が主たる流入血管となっている場合は前方から椎体切除を行い、動静脈短絡の遮断を行うこともあるが、通常は椎弓切除を行い、後方からアプローチし、前脊髄動脈からの流入血管を遮断する場合には歯状靱帯を切断し、脊髄を愛護的に回転させて行う。

人工塞栓術あるいは観血的手術においても脊髄動静脈奇形が完治せず、再発することはありえることでり、長期間の経過観察およびfollow upのDSAは必須である。

海綿状血管腫 cavernous angioma

疫学的事項

比較的まれな髄内腫瘍で髄内出血を起こすことで知られている。Ogilvyらによれば40歳で発症することが多く、女性が69%であり、胸髄(54%)そして頸髄の髄内に多く見られた。

診断

高磁場のMRIは診断上、有用であり血管造影は通常不要である。

症候

腫瘍内の繰り返す出血によるmass effectによる急性発症、あるいは緩徐に慢性に進行する脊髄症状が典型的である。しかしながら特に家族性のものでは無症状の多数の海綿状血管腫がしばしば見つかることがある。この際、海綿状血管腫の自然経過がまだ不明のため、無症状のものについての治療はいまだ議論の多いところである。

治療

脊髄症状が顕在化している患者では顕微鏡下の腫瘍摘出が推奨される。腫瘍はgliosisによって周囲を囲まれているが、慎重な剥離により全摘出は可能である。放射線照射は出血予防としては無効である。



脊髄動脈奇形

分類

あらゆる年齢に起こるが、30〜60歳に多い。部位は下位胸椎に多いが、10〜15%は頸椎部である。脊髄動静脈奇形の脊髄腫瘍に対する比率は約5〜20%である。脊髄動静脈(奇形AVM)については、1977年、Kendallらによってdural AVMの存在が報告されて以来、疾患概念も臨床特徴も明確になった。Rosenblumは脊髄動脈奇形をdural AVMとintradural AVMとに大別し、さらにintradural AVMをjubenile type、glomus type、intradural arteriobenous fistulaの3型に分類した。

硬膜動静脈奇形(dural AVM)

nidusが硬膜近傍にあり、導入動脈は硬膜動脈である。nidusを通った血流は脊髄表面の軟膜静脈叢(coronal venous plexus)をゆるやかな速度で逆流する。この導出静脈は脊髄前面と後面にほぼ均等に分布する。導入動脈は脊髄を養う血管とは交通がなく、その数は通常1本である。

硬膜内動静脈奇形(intradural AVM)

nidusが髄内あるいは脊髄表面に存在し、導入動脈は根動脈あるいは脊髄動脈である。したがってAVMと脊髄とは血流を共有している。nidusを通る血流は速い。動脈瘤の合併が多く、glomus typeではくも膜下出血を伴う。

脊髄動静脈奇形の症候

発症および進行様式

@慢性進行性(chronic progressive)

年余にわたり緩徐に進行する脊髄腫瘍に類似の型で、41%を占め、最も多い。

A間欠性(episodic or remittent)

一過性の神経症状が前駆したり、増悪、寛解を繰り返しながら進行していく。22%を占める。

B急性または卒中様(acute or apoplectiform)

数時間から2〜3日、ときには数分以内に横断性脊髄麻痺になる。AVMの37%を占める。

実際の症例では、この基本型に急性悪化、漸次悪化、進行停止、部分寛解などが加わって、複雑な経緯をとることが少なくない。

初発症状

Rosenblumによると、dural AVMでは最多の初発症状が麻痺であり(44%)、くも膜下出血は起こさない。一方、硬膜内AVMではくも膜下出血が31%で初発症状をなし、glomus typeのAVMで最も起こりやすい。硬膜内AVMでもjuvenile type、AV fistulaでは最多の初発症状が筋力低下である。

神経症状

一般に2、3髄節から数髄節にわたり、多少とも左右差をもつ限局性、あるいは散在性の脊髄実質障害に対応する神経症状を呈する。筋萎縮は左右差がみられ、排尿障害は早期から高率に出現する。知覚障害は初期には温痛覚だけが選択的に障害される解離性知覚障害が約1/3にみられるが、経過とともに深部知覚も侵され全知覚障害に移行する。病初には痙性麻痺を呈するが、やがて痙性・弛緩性麻痺の混合に移行し、末期には弛緩性麻痺に発展する。このように上位運動ニューロンの障害が共存するのが特徴である。特徴的な症候として、くも膜下出血、間欠性跛行、皮膚血管腫がある。

検査所見

髄液は細胞数は概して正常で、蛋白は増量する。ミエログラフィーでは虫様、コイル状と形容される屈曲蛇行した血管奇形陰影がみられる。MRIでは、異常血管はflow voidにより無信号として描出される。大きなnidusは描出されやすい。AVMと共存する血腫は高信号として描出される。選択的脊髄血管撮影によって輪入動脈、nidus、輪出静脈を造影できれば診断は確定する。

硬膜AVMと硬膜内AVMとの鑑別点

  硬膜AVM 硬膜内AVM
成因 後天性 先天性
導入動脈 硬膜動脈、通常1本 脊髄動脈、通常複数
nidus 硬膜近傍 脊髄内または軟膜
発生レベル 胸腰髄 頸髄または胸髄
動脈瘤合併 ときに+
血流 遅い 速い
血管雑音 まれに+
発症年齢 中年(40歳以上) 若年(30歳以下)
初発症状 進行性下肢麻痺 出血(脊髄内、くも膜下)
発症様式 緩徐、慢性進行性 急性
くも膜下出血
皮膚血管腫




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