脊髄腫瘍(脊髄髄内腫瘍、脊髄髄外腫瘍、馬尾腫瘍)

脊髄腫瘍の概念と概要

概念

脊髄腫瘍は、脊髄ならびにそれに連続する後根・前根、および馬尾に発生した原発性腫瘍をいうが、脊髄にできる動静脈奇形(arterio-venous malformaion;AVM)や腰仙椎部にできる奇形性腫瘍である脂肪腫もその統計に含むことが多い。

頸髄腫瘍は、大後頭孔部から頸・胸移行部までに発生した腫瘍を含むので、症状が多彩であるばかりでなく、麻痺が起こると四肢麻痺となるので早期に診断と治療がなされねばならない。

近年、水溶性造影剤とそれに続くCTM(computed tomography after myelography)の普及、さらに最近はMRI(magnetic resonance imaging)の開発により脊髄腫瘍の診断は容易になりつつあり。とくにその横断面上の診断は、神経学的所見からは想像もつかないほどの広がりをみせることも少なくない。

脊髄腫瘍ならびに頸髄腫瘍の頻度と占拠高位

脊髄腫瘍の発生頻度は、欧米では人口10万人当たり0.9〜2.5人で、脳腫瘍の3分の1から10分の1の頻度といわれている。わが国ではそのような統計はないが、1929年から1988年の間に○○病院で手術的に確認した脊髄腫瘍は310例である。以下その症例を中心に脊髄腫瘍における頸髄腫瘍の位置付けにつき述べる。

脊椎における発生高位は記録のはっきりした294例中、頸椎部が101例(34%)、胸椎部が118例(40%)、腰仙椎部が75例(26%)であり、欧米における頸椎部腫瘍の頻度15〜25%に比しやや高くなっている。一方、頸椎部の101例中、C2/3より頭側に発生したいわゆる上位頸髄腫瘍は23例で、頸髄腫瘍の23%、全脊髄腫瘍の8%と少なくなかった。

脊髄横断面に対する腫瘍の位置は、硬膜内外腫瘍とも腫瘍の背側に偏在する例が約半数であった。これは最も頻度の高いneurinomaが脊髄後根から発生することが多いからである。

性別

性別については内外の報告とも男性が若干多いが、自験例では男性179例(58%)、女性131例(42%)と3:2の比率であった。

年齢

手術時年齢でみると脊髄腫瘍は幼児から高齢者までに広く分布する。とくに30歳代が22.6%と多く、20歳代から50歳代までで75%とその大多数を占めていた。頸髄腫瘍のうち15歳以下は7例(21%)、61歳以上は9例(33%)をその他の高位と大差はなかった。

占拠横断位

脊椎、脊髄の横断面上の腫瘍の占拠部位は髄内、硬膜内髄外、硬膜外の3型に分類し、それとは別に砂時計腫(dumbbell型)を区分する。砂時計腫の正しい部位診断はCTが普及するようになって可能になったもので、その占拠部位により@硬膜内外、A椎間孔内外、B硬膜・椎間孔内外の3型に分けられるが、脊髄造影所見により便宜的には硬膜内髄外か硬膜外に分類されることが多い。

さらに馬尾神経腫瘍は硬膜内髄外に、腰椎仙部の奇形性脂肪腫は硬膜外に分類すると、自験例294例中、髄内51例(17%)、硬膜内髄外158例(54%)、硬膜外85例(29%)であった。このうち砂時計腫の診断が可能になったと思われる1963年以降の225例を対象にその発生頻度をみると、頸椎部では78例中39例(50%)、腰椎部92例中11例(12%)、腰仙椎部55例中15例(27%)であり頸髄腫瘍にその頻度が高いことが分かる。とくに上位頸椎部では23例中15例(65%)と多く、上位頸髄腫瘍をみたらまず砂時計腫でないかと疑ってかかるべきである。

病理学的組織診断

原発性脊髄腫瘍の組織学的診断ではneurinoma(neurilemoma、neurofibroma)が最も多く、次いでmeningioma、glioma(ependymoma、astrocytoma、neuroblastoma、oligodendroglioma、medulloblastomaなど)となり、ほかに血管性腫瘍(haemangioblastoma、AVM)、奇形性腫瘍(epidermoid、dermoid、teratomaなど)があり、悪性腫瘍としてはsarcomaのほかにchordomaを含む報告が多い。自験例ではneurinomaが53.6%と圧倒的に多く、meningiomaは7.7%とやや少なかった。

脊髄腫瘍の発生頻度

わが国ではneurinomaが約半数を占めているのに対し、欧米ではmeningiomaが同等に多くなっている。

  Slooff,et al Leibowitz,et al 大島 戸山ほか
(1964) (1971) (1981) (1988)
神経鞘腫
(neurinoma)
29.0% 25.6% 48.2% 53.6%
髄膜腫
(meningioma)
25.5% 27.8% 14.9%  7.7%
神経膠腫
(glioma)
22.0% 12.2% 14.2% 13.8%
血管性腫瘍
(vascular tumor)
 6.2%  8.9% 11.3%  8.8%
類上皮腫、類皮腫、奇形腫、嚢腫
(epidermoid、dermoid、teratoma、cyst)
 1.4%  7.8%  8.7%
肉腫
(sarcoma)
11.9%  2.2%
脊索腫
(chordoma)
4.0%  1.1%
その他 24.4%  3.6%  5.2%
合計 100% 100% 100% 100%

脊髄腫瘍による症状発現機序

髄外からの圧迫

脊髄後根から発生した腫瘍は、そのほかの根糸を圧迫して、同根の走行に沿う放散痛を引き起こす。そのほか、硬膜や後縦靱帯の刺激によっても、疼痛が発生する。
腫瘍が増大すると、ほとんどの場合は、後側方から脊髄を圧迫し、いわゆるBrown-Sequard型の麻痺を呈する。すなわち、圧迫側の錐体路の障害により、圧迫レベル以下の運動麻痺(反射亢進、病的反射出現、筋力低下)、後索の障害による触覚・深部知覚の障害、脊髄視床路の障害により、反対側の圧迫レベルから、1〜数髄節尾側以下の、温痛覚の障害も見られる。なお圧迫レベルでは、交叉性の線維がやられるので、同レベルは全知覚脱出となる。

腫瘍による圧迫がさらに進むと、横断性麻痺となる。すなわち圧迫髄節の全知覚障害、反射の消失、あるいは減弱、索路性には圧迫髄節より尾側の腱反射の亢進、病的反射の出現、筋力低下(しばしば歩行困難となる)が、みられる。また知覚障害は、はじめは下肢に強いが、圧迫の増大に伴い、上行性に進行し、ついには完全横断麻痺となる。

髄内からの圧迫

髄内腫瘍の多くは、中心部に発生する。初期には、脊髄灰白質の交叉性線維が障害されるので、当該髄節のみの温痛覚が、帯状に障害される。腫瘍が増大するとともに、周囲の索路を圧迫し、麻痺は下行性に進行する。脊髄視床路に起因する、温痛覚障害は出現しても、後索に由来する触覚は、長く保たれ、いわゆる知覚解離が見られないことが多い。その後も、横断性麻痺が完成するまでは、脊髄の最外層に位置する、仙髄節支配線維は障害されずに残り(肛門周囲の知覚)、sacral sparingといわれる。また、頸髄部での交感神経が障害されると、Horner徴候が出現する。

上位頸髄での圧迫

上位頸髄部に腫瘍があると、やはり初めは神経根の圧迫による疼痛、多くは大後頭神経痛を呈し、痛みは怒責や、くしゃみにより増強する。圧迫が脊髄におよびC4髄節を障害すると、横隔膜の麻痺による呼吸障害が出現する。

腫瘍が大後頭孔部に及ぶと、同部は延髄と頸髄の移行部に当たるため、下部脳神経の症状を含め、多彩な症状を呈する。上肢と下肢への錐体路の交叉部が、この高位にあるため、圧迫の方向により、運動麻痺の形が異なる。図5の高位で左から圧迫が加わると、まず左上肢の運動障害が、ついで左下肢、右下肢、最後に右上肢が麻痺する。これは麻痺のわまり方から時計まわり型の運動麻痺とよばれる。逆に圧迫が右から加われば、麻痺の起こり方は反時計まわり型の麻痺といわれる。頻度は少ないが圧迫により頭側に起これば、hemiplegiacruciata(Wartenberg)型やcruciata(Bell)型の麻痺となることがある。また三叉神経の脊髄下行路の障害により顔面の知覚障害が、小脳症状として眼振などがみられることもある。

脊髄腫瘍の診断(頸髄腫瘍)

臨床診断

自覚症状

運動障害よりも痛み、しびれ、異常知覚のような感覚障害で、初発することが多い。
Slooffらによると、初発症状としての疼痛は68.1%と多く、この時期に診断することが望ましい。

脊髄腫瘍患者に見られる初発症状(Slooffら、1964)

麻痺が出現するまで、長い期間疼痛のみを、訴えていることが少なくなく、この時期に診断をすることが必要である。

初発症状 頻度
疼痛  68.1%
知覚障害  10.6%
運動障害   16.6%
知覚+運動障害   2.1%
膀胱直腸障害   2.6%

@疼痛

痛みはほとんどの症例にみられ、その多くは根性疼痛であり、針で刺されるような痛みや、強い電流が流れるような痛みと、表現される。後者の放散性疼痛は、その範囲が腫瘍の発生した神経根の、皮膚支配域に、しばしば一致する。また、痛みは時に耐え難いほどであr、夜間横になっても、軽減しないこともある。また仰臥位で寝ることができず、座ったままで、寝ざるを得ない例もある。

頸髄腫瘍では頸部痛、放散性の頸腕痛が、上位頸髄腫瘍で、後頭部痛が主訴となる。
そのほか頻度は少ないが、髄内腫瘍などでは、脊髄の索路性疼痛があり、それは重苦しい痛みであったり、腫瘍とは離れた部位の、灼熱感だったりする。その時は高位診断に、惑わされないようにしなければならない。

Aしびれ、異常知覚

しびれも根性あるいは、髄節性のものと、索路性のものとがあり、特に頸髄腫瘍では、上肢のしびれの他に、臍部や下肢以下の、しびれとして訴えられることが多い。また、しびれの内、あるいは触らなくても、あるいは風に触れただけでも、しびれ痛いという、ジゼステジー、あるいはパレステジーという異常知覚もある。また、Brown-Sequard型麻痺の時は、風呂に入っても、半身が熱さを感じないと、訴えることもある。

B運動障害

筋力低下は、上肢では腕が上がらない、物をよく落とすなどと、訴えられる。
下肢ではつまずきやすい、走りにくくなった、階段の昇降時、足が上がらないなどと訴えられる。
もちろん、急に症状が進行すれば、歩行不能となることもある。まれには、手足の筋萎縮に気付いて来院することもある。

C膀胱直腸障害

初発症状であることは少ないが、トイレに行っても尿がすぐ出ない、切れが悪い、残尿感がある、などと訴えられる。そのほか、便秘や性機能の低下などを訴えることもある。

他覚所見

神経学的診察により、麻痺の高位、障害の範囲を診断し、腫瘍が髄内であるか、髄外であるかを推定する。

@脊椎症状

後変形のように、脊椎の彎曲異常が見られることがある。痛みのため頸椎の運動制限が、また腫瘍の存在高位に一致して、棘突起に殴打痛が、しばしば見られる。

A知覚障害

頸髄腫瘍による、根性および髄節性の知覚障害は、上肢に見られるが、運動障害に比し、障害の高位診断に有用であり、特に痛覚の検査の方が、触覚より鋭敏である。触覚が保たれ、痛覚が障害される、いわゆる知覚解離が見られれば、髄内腫瘍や、脊髄空洞症が疑われる。

髄節性の知覚障害は、前述のように圧迫の程度により、下肢の方から上行してくるので、頸髄腫瘍の場合、体幹の知覚障害の高位を、腫瘍の高位と、誤認しないようにすべきである。

また、知覚障害が上昇しても、肛門周囲の仙髄支配域の知覚が、最後まで温存される
(sacral sparing)ことを忘れてはならない。したがって、肛門周囲の知覚検査を怠ってはならない。

位置覚の検査により、下肢に障害が見られなければ、圧迫が脊髄の前方から、始まっていることが分かる。失調性の歩行障害は、脊髄の後索障害で起こるので、本検査は欠かせない。

B反射異常

髄節症状として、圧迫のある脊髄高位に中枢がある、深部腱反射は減弱、あるいは消失する。索路症状としては、圧迫高位より、尾側の腱反射は亢進する。その程度が強いと、足クローヌス
(ankle clonus)や、膝クローヌス(patellar clonus)が出現する。

頸髄腫瘍では、腹壁反射や、挙睾反射のような、皮膚反射は減弱、あるいは消失する。また、錐体路症状として、ホフマン反射(Hoffmann reflex)や、ビバンスキー徴候(babinski phenomena)のような、病的反射が出現する。なお、まれではあるが横断性の麻痺が、急激に出現すると、脊髄ショックとなり、すべての腱反射は消失する。

C運動障害

頸髄腫瘍では、髄節性の麻痺として、両上肢の筋力低下が、前角障害の強い例では、手指の筋萎縮が見られる。索路性の痙性麻痺は、手指の協調運動の障害(巧緻運動障害)と、下肢には痙性歩行による、歩行障害が出現する。歩行障害には、痙性歩行によるものの他に、下肢の筋力低下によるものや、脊髄の後索障害による、失調性歩行があるので、診察にあたっては、実際に歩かせて、歩行を観察しなければならない。

なお、病態は明らかではないが、上位頸髄腫瘍でも、手指の筋萎縮や、巧緻運動障害が、しばしば出現するので、注意が必要である。

D自律神経障害

頸胸移行部の髄内腫瘍では、しばしばホルネル(Horner)徴候、(瞳孔縮小、眼球後退、眼裂縮小)がみられる。完全な横断性麻痺に近くなると、麻痺域以下の発汗障害(皮膚が乾燥する)と、正常部の多汗がみられるようになる。

E膀胱直腸障害

頸髄腫瘍に見られる排尿障害は、尿閉や尿失禁になることはまずなく、排尿の開始遅延、怒責を要したり、残尿感などを訴える。泌尿器科的検査では、神経因性膀胱の診断が下される。

検査および画像診断

髄液検査

四肢麻痺の患者に対しては、まず腰椎穿刺による髄液検査を行い脊髄のくも膜下腔に通過障害がないかを診断する通常L4/5間に針を刺入し、まず液の性状をみ、髄液圧を測定後クエッケンステット(Queckenstedt)現象の有無を観察する。髄液が黄染していれば、蛋白の量の増加を示しキサントクロミー(xanthochromia)といいくも膜下腔の通過障害の存在を示す。

採液後室温に放置しておくと液が凝固することがあり、これはフロアン(Froin)徴候とよばれるが、頸髄腫瘍ではまずみられない。髄液圧は60から50mmH2O程度であるが、両側の頸静脈を圧迫し液圧の上昇と圧迫の除去により速やかに液圧の下降がみられれば正常である。液圧の上昇がみられないときにはQueckenstedt現象陽性となり、針刺入部より頭側のくも膜下腔に通過障害が存在することを示し脊髄腫瘍も疑われる。

採取した髄液は、蛋白量、糖量、Cl量、グロブリン反応、細胞数その性状などの検査に摘出する。頸髄腫瘍の存在を示唆する髄液所見を表3に示す。

表3 脊髄腫瘍の存在を示唆する髄液所見

下記所見は腫瘍が尾側にあるほど強くなるので、頸髄腫瘍の場合は蛋白量の増加の程度が低いことが多い。

1.排液がないかごく少量
2.髄液が黄色を呈する(xanthochromia)
3.Queckenstedt現象が陽性
4.髄液中の蛋白量が50mg/dl以上に増加する
5.髄液のNonne−Apelt反応が陽性
6.蛋白細胞解離(蛋白量増加するが、細胞数は増えない)がみられる

単純X線および断層撮影

脊髄腫瘍により脊髄麻痺があるときにはまず単純X線撮影が行われる。ごく小さな腫瘍のときはX線上異常がないことがあるが、ほとんどの場合はよく観察すると、なんらかの異常がみつかるものである。側面像では、生理的前彎の消失や後彎変形の有無を観察する。続いて椎体の輪郭を追うと後縁の陥凹が、すなわち脊柱管の前後径の拡大(頸椎では18mmくらいまでが正常)がみられることがある。正面像では、椎弓間根の変形、狭小化、消失などがみられる。しかし頸椎ではもともと椎弓根陰影がはっきりしないことが多いので、必要に応じて断層撮影を行うべきである。左右の椎弓根の間の距離を各椎体高位で測定しElsberg−Dyke曲線上にプロットする。正常の範囲を超えて値の大きい高位があれば同高位に脊髄腫瘍の存在が疑われる。日本人用には、土田の測定した平均値の±2SD値を正常範囲として用いるとよい。しかし、小児の場合は値がことなるのでSimrilらの測定値を使用するとよい。斜側面像で椎間孔の拡大がみられれば、腫瘍が同部におよんでいることを示すのでdumbbell型腫瘍が疑われる。

表4 脊髄腫瘍を疑わせる単純X線所見
頸髄腫瘍では砂時計腫が多いので、斜側面像で椎間孔の拡大はしばしば認められる。

側面像 1.後彎変形
2.椎体後縁の陥凹
3.脊柱管全後径の拡大
正面像 1.側彎変形
2.椎弓根の狭小化、消失
3.椎弓間距離(Elsberg−Dyke曲線)
斜側面像 1.椎間孔の拡大

脊髄腔造影(myelography)、CTM

Myelographyは水溶性造影剤が普及したため、現在は腰椎穿刺により造影剤を注入してそれを頭部を下げることによって頸椎部に集めて観察している。使用する造影剤はイソビストかオムニパークで、240mgI/mlの濃度のものを10ml注入する。最近は髄液検査に続いて行うことが多い。この上行性myelographyで完全な通過障害があったときには、圧迫の上限を確認するため後頭下あるいは頸椎の側方刺入により造影剤を注入し、下行性myelographyを行う。

造影剤の通過障害の造影剤は、いわゆる騎袴状を呈する硬膜内髄外圧迫像、脊髄の腫張を示す脊髄腫張像、筆の穂先状に先が細くなる硬膜外圧迫像、およびその組合せ像がある。

脊髄腫張像の場合は、髄内腫瘍のほかに脊髄空洞症の場合もあるが、現在ではMRIの利用によりその鑑別は容易となっている。造影像の判読にあたっては、脊髄の陰影を追うようにすると圧迫のサイドの見間違いが少なくなる。なお、上位頸椎の硬膜外腫瘍の場合、同部のくも膜下腔が広く硬膜と黄色靱帯との結合が強いため、あたかも硬膜内髄外腫瘍を示唆する騎袴状像を呈することがあるので注意が必要である。

Myelography検査に続いて、多くの場合2〜3時間後にCT撮影(CTM)を行う。本検査により脊髄と腫瘍との関係が、とくにくも膜下腔との位置が明らかになり、myelographyの所見を補足する。そのCT像の観察により、腫瘍の椎間孔から前方への広がりと大きさを知ることができるようになり、いわゆるdumbbell型腫瘍の診断が可能になった。

なお単純CT撮影でも、腫瘍の存在部位のスライスがなされれば単純X線像と同等の、ときにはそれ以上の所見が得られる。

MRI(共鳴磁気映像法)

本検査は、CT検査に比し軟部組織の映像に優れた画期的検査法であり、今では脊髄腫瘍の診断に欠かせないものとなっている。とくに、磁気を利用しているためX線被爆の問題もなく、脊椎・脊髄の矢状面像が1枚のフィルムに表示され、またmyelographyに比べても非侵襲的であり、外来検査として行えるので、まず初めに行われるべきスクリーニング検査と思われる。しかし現在では同機種を持っている施設は限られているが、これから普及するものと思われる。これには0.1〜0.15テスラ(Tesla)の常伝導とそれ以上の静磁場強度をもつ超伝導の機種とがあり、後者の方がより鮮明な画像が得られる。

MRIはとくに髄内腫瘍と脊髄空洞症との鑑別、硬膜外脊髄腫瘍と転移性腫瘍との鑑別、上位頸髄腫瘍の診断、血管性腫瘍の診断に優れているばかりでなく、とくに小児ではmyelographyの代用とすることができる。MRI画像には用いたパルス系列からT1強調像(TR繰返し時間);400〜500msec、TE(エコー時間);30〜40msecとT2強調像(TR;1,500〜2,000msec、TE;60〜120msec)とがあり、その両者を撮像する必要がある。また、脊髄腫瘍の診断にはMRI用造影剤Gd−DTPAを静注してから撮影すると腫瘍に造影剤が取り込まれてより鮮明な像を得ることができる。以下に腫瘍別にその有用性を述べる。

1.髄内腫瘍

@矢状画像での脊髄腫大像と腫瘍の上下の広がりの診断。
AependymomaはT1、T2強調像とも脊髄に比し等〜低信号となることが多いが、astrocytomaではT1、T2強調像とも高信号となることがある。
B脊髄空洞症との鑑別(脊髄空洞症ではT1強調像で低信号となる)
C血管性腫瘍では、血流の早さにもよるが無信号となることが多い。

2.硬膜内髄外腫瘍

@脊髄と腫瘍との位置関係の診断。
AneurinomaはT1強調像で低信号、T2強調像で高信号となることが多い。meningiomaではT1、T2強調像とも等信号となる。いずれの腫瘍でもGd−DTPAを使用すればT1強調像でも腫瘍は高信号となる。
B脂肪腫はT1強調像で高信号となるのが特徴である。

3.硬膜外腫瘍(砂時計腫)

@腫瘍と脊髄の間に低信号域(extradural sign)がみられることがある。
A砂時計腫では、横断面上椎間孔外への腫瘍の広がりの診断。
B脊椎腫瘍(骨髄腫のような原発性、転移性)、脊椎の炎症(カリエス、化膿性脊椎炎)との鑑別。

血管造影(angiography)

髄内腫瘍では血管性腫瘍である可能性があり、その診断のために頸部では椎骨動脈造影を行う。AVMでは流入血管と流出血管の診断を行い、エンボリゼーション(動脈塞栓)のみで治療するか手術的に摘出するのか判定を行う。術前にエンボリゼーションを行うことが多い。そのほか、砂時計腫では椎骨動脈の走行を観察する。

電気生理学的検査

電気生理学的検査としては、針筋電図や運動・知覚神経の伝導速度の測定が行われるが、腫瘍による脊髄麻痺は中枢性麻痺が多いため、一般には筋力低下のわりに異常所見の出現は少ない。したがって、筋電図検査は下位ニューロン疾患との鑑別には有効である。

最近では、脊髄や末梢神経を電気刺激し誘発される脊髄電位を記録することにより脊髄の病巣診断が可能になってきた。また、髄内腫瘍では本電位を手術中に記録することにより術中脊髄モニタリングを行うことができる。

脊髄腫瘍(頸髄腫瘍)の治療

脊髄腫瘍の治療は、腫瘍である以上外科的摘出なくしては治癒させることはできない。しかし、頭尾方向に長く連続した髄内腫瘍や、頭蓋内まで連続するような腫瘍では、技術的に摘出が困難であるためやむをえず放射線治療を行うことがある。また、科学療法にはまったく期待ができない。以下、腫瘍の外科的治療法と問題点を述べる。

椎弓切除術、脊柱管拡大術

脊柱管内にある脊髄腫瘍を摘出するには、椎弓を切除して硬膜に達しなければならない。従来は、椎弓切除術によっていたが、腫瘍が椎間孔内に達している砂時計腫などでは椎間関節も切除するので術後に後彎や側彎のような脊柱変形が起こることが知られてきた。そこで、片側にある腫瘍では砂時計型であっても片側の椎弓切除術のみで、正中にまでおよぶときは片開き式脊柱管拡大術で、髄内腫瘍のときは両開き式の脊柱管拡大術で腫瘍を摘出するようになってきた。前後からの合併手術が必要な大きな砂時計腫では、脊柱再建のため内固定を併用した固定術を行うこともある。

マイクロサージャリー

硬膜内髄外腫瘍やほとんどがneurinomaである砂時計腫では出血も少ないので従来の摘出術をatraumaticに行えば、安全かつ迅速に摘出することができる。しかし、髄内腫瘍やAVMでは、腫瘍と正常脊髄との境界が不明瞭のことが多いので、顕微鏡を使用することは不可欠である。この場合も硬膜を切開するまでは、従来の方法による方がよい。その際、術野に血液がたまらないように止血は完璧に行う必要がある。

脊髄モニタリング

髄内腫瘍やAVMでは、顕微鏡下に摘出を行う以外に、手術後の麻痺の悪化を防ぐため、手術中に脊髄のモニタリングを行う必要がある。その方法は、電気整理学的手法によるが、脊髄あるいは末梢神経を電気刺激し誘発される脊髄電位を用いることが多い。
しかし、この方法では脊髄の知覚系のみのモニターになるので、運動系のモニターには大脳刺激の下行性電位も使用するとよい。
一方、本法は手術中モニタリング波形に変化がきても手術を続行しなければならないこともありいまだ問題も多い。

摘出術の実際

髄内腫瘍

両開き式脊柱管拡大術により硬膜を展開する。硬膜を切開後は顕微鏡を使用し、腫瘍の存在により膨隆した部位の脊髄の髄背血管を凝固する。脊髄の正中部を切開し腫瘍を確認できたら一部を摘出し迅速病理検査に提出する。その結果がependymomaやastrocytomaで、境界が比較的明瞭であれば切開を上下に伸ばし腫瘍の全摘をはかる。境界が不明瞭なastrocytomaであれば無理に全摘を試みずに、術後の放射線療法に期待する。haemangioblastomaの場合は腫瘍が髄背にも露出していることがおおいので摘出はより容易になる。

硬膜内髄外腫瘍

この型の腫瘍にはneurinomaやmeningiomaが多く、境界も明瞭なので全摘出が可能である。なおmeningiomaの場合は、腫瘍の発生源である。硬膜を十分に切除する必要がある。

硬膜外腫瘍(砂時計腫)

腫瘍は左右どちらかに偏しているので、椎弓の切除は片側のみとするか、いわゆる片開き式脊柱管拡大術を行う。砂時計腫では、片側の椎間関節を部分的に切除し、必要に応じて硬膜も切開して腫瘍の全貌を観察する。この型の腫瘍はneurinomaのことが多く癒着は少ないので、まず椎間孔外の腫瘍の周囲を剥離する。すると後方から腫瘍の全摘出が可能のことが少ないない。後方だけから摘出できないときには、創を閉じ、続いて前方侵襲により残った腫瘍を全摘する。これらの操作により、脊椎の安全性が傷害sれると判断したら内固定(プレート、ワイヤーなど)を併用した脊椎再建術を行う。